リポート／井川定彰（仮名）38歳　食品商社勤務

ちょっとしたはずみで、もしあなたが明日逮捕されたとしたら…。ここに、ちょっとばかり酒に飲まれ、見ず知らずの男とケンカ騒ぎを起こしてしまった普通の男がいる。

井川定彰（仮名、38歳）―。2流大学を出て、現在はしがない商社の内勤サラリーマン。人と顔を合わせなくても済む事務職を生業にしていた平凡な彼を待っていたのは、海千山千の犯罪者を呑みこむ留置場。

2日間のプチ勾留を余儀なくされた彼が直視する人間模様とは。今回は彼の体験談を聞いて、チラ見したいけど絶対に入りたくはない留置所の中をちょっと覗いてみよう。

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■傷害の現行犯逮捕でブチこまれる

今年８月４日、オレは友人と大阪ミナミにある『笑笑』で酒宴を催していた。小心者のオレもちょっと気が大きくなっていたのか、飲みはじめて２時間、店員をどちらが先に呼んだかで店に来ていた客と小競り合いになった。

オレ「先に呼んだし、注文をとりにくるのはこっちが優先ちゃうかなぁ…」

男「何をぬかしてるんじゃ！　細い体してるくせにシバき倒したろか!!　コラ、殺すぞ!!」

肉体労働者風の相手の男はのっそりと近づき、オレの頭を人差し指で突っついた。そのとき、恐くなったオレは男を思いっきり突き飛ばしてしまった。気がつくと、テーブルで後頭部を切った男が頭から血を流している。

店内は騒然。まもなく到着した警官たちに取り囲まれ、警察署に連行されることになった。ケガをした相手は、救急車で搬送。オレは、傷害容疑での現行犯逮捕。店の外ですぐさま黒い手錠を打たれた。旭日章が小さく打刻され、鎖３つで両手が繋がれる。な、なんなんやコレ…

パトカーの後部座席に押し込まれ、私が到着した先は現場近くの『Ｓ警察署』。時間は午後10時だった。

警官「早よ、降りんかい!!」

オレ「なんなんや、先にやられたから突き飛ばしただけなんや！」

警官「人様にケガさせといて、何ヌカす!!　オマエは“犯罪者”じゃ!!」

警察署内の強行犯係の取調室に連れて行かれ、取調室へ入れられた。大杉漣似の刑事が半袖のガラシャツを靡かせ、威圧感たっぷりにオレを睨む。簡単な身分照会と調書を取られた。それで帰してもらえる、オレはそう思った。しかし…

刑事「おい、検察庁に請求してた逮捕状出たわ。井川ぁ、ご宿泊やでぇ！」

オレ「へぇっ?!　どういうことですか？」

担当刑事の大杉は、含み笑いをしながら、オレに向かってそう言った。時刻は午前1時すぎ。こうしてオレは、逮捕されて拘禁されることになった。とりあえず逮捕事由があれば、48時間ものあいだ、警察で身柄を拘束できるらしい。

刑事「明日から取調べじゃ！　せんべい布団にでも寝て、反省しとけ!!」

移動するたびに大杉に手錠をはめられ、腰紐を巻かれる。非日常的な拘束具の冷たさに、オレは留置所に移される間、涙がこみあげてきた。確かにケガをさせてしまったのは事実だが、故意にやったわけじゃない。恐かったんや。

≫≫続く

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文／丸野裕行

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